小林賢太郎

 

2020年12月1日、小林賢太郎が芸能活動を引退していたことが発表された。

 所属事務所トゥインクル・コーポレーションのツイートより。


ラーメンズ』と言う、コアな人気があるコントユニットがあることは知っていたけれど、私が実際に見てみよう、と思ったのは2009年の春だった。
ちょうど、当時生活と感情の全てを賭けて恋し応援していた役者さんが引退する時。
その役者さんがいた団体のファン友達から、いわゆる『妄想キャスティング』的な面白さとしていくつかのコントを勧められた。(「このコント、○○さんと××さんでやっても面白いよねw」みたいな感じ。オタクはそういう遊びをよくする)
面白FLASH世代だから「千葉滋賀佐賀」という言葉は知っていたし、怖いコントも好きだから『採集』っていうヤバいやつがあるんでしょと言うそれだけの予備知識のまま初めて手にしたのは『CLASSIC』。
これは、ラーメンズのDVDの中ではかなり異端な作品らしいと後で知った。
他の作品と同じようにショートコントの詰合せではあるけれど、この作品だけ他のものと違い、舞台がずっと帝王閣ホテルと言う場所で、彼ら二人はそこの従業員同士と言う設定、従業員と客と言う設定、客同士と言う設定でめまぐるしく演じ変えてコントが出来ていく。


ラーメンズ『CLASSIC』より「ダメ人間」
忘れられない、私の最初に見たラーメンズの作品。

キャッチーな歌、キャッチーで言いたくなる台詞。少しの怖さと闇、を、打ち消すシンプル言葉遊び。さっきまでクズ男でめちゃくちゃ格好良かったかと思えば、今度は兎耳をつけてウザ可愛いくなる演じ分け。
彼らがしているのは、『お笑い』で『コント』で『演劇』で、『芸術』だった。
一気に好きになってBOXは二つともすぐに購入した。当時のバイト代金の半分以上だったと思うが後先なんて考えていられなかった。

 


ラーメンズ『TEXT』より「不透明な会話」
『TEXT』に収録されている『不透明な会話』もすごかった。
ラーメンズでよく見られる、二人が座って雑談しているだけのようなスタイル。
片方が一方的にやりこんでるように見えて、途中で攻守が逆転しているようで、していない。そんなおかしさ。
そしてコントの中で張り巡らされたその先への伏線。これがまた気持ち良い。



伏線回収と言えばこれ。


ラーメンズ『CHERRY BLOSSOM FRONT 345』より「蒲田の行進曲」
これは単品で見ると分からない部分も多いので、貼るのはあれかなーと思うけどまあ自分の記録としてね。
そしてこのコントはタイトルからも分かる通りつかこうへい『蒲田行進曲』のパロディでもある。私は『蒲田行進曲』が大好きなので、そういう点も嬉しかった。
片桐さんが格好良くて、賢太郎が舎弟的ポジションのコントも楽しいと言うか安心して見ていられる、役者としての二人への信頼感。


役者として。ドラマとして見られる作品。


ラーメンズ『ATOM』より「アトムより」
……こっち、かな。これも伏線回収がすごいんですよね。
この作品の中の「日常の中の非日常ではなく~」という台詞、ラーメンズですね。
これを考え付いた小林賢太郎、面白いなあと素直に思っちゃう。
ノスはいい子で可愛いし、だからこそ切ないと言うか、今久し振りに見たら涙出ましたね。
ラーメンズのコント、気を抜いて見ると泣いちゃうんだけど、最初は気を抜いて見て欲しい。裏切られて欲しい。


『採集』『器用で不器用な男と不器用で器用な男の話』『不思議の国のニポン』『絵かき歌』など色々な意味で有名所はご自身のタイミングと言うか、やっぱりその収録されている公演のその順番で見て欲しいなと思います。


小林賢太郎は私にとって、一つの世界の神様だった。その世界は彼と片桐仁しかいなくて、私は遠くからそれを眺めるだけだけれど。
知的で頭の良い男が、元気で無邪気で(一見)頭が悪そうな男に振り回されて更に才能の爪を研ぐ関係が好きなのは、ここから始まったんだよなあ。

KKPは何本か見ていた。片桐仁のファンだったので、映像では『good day house』『sweet7』『PAPER RUNNER』、あと無理やり見せられた『TAKEOFF』。

生で見たのは初演の『ロールシャッハ』と『ノケモノノケモノ』。
ポツネンにはあまり興味がなかった。うるうにも、カジャラにも。
繰り返すけれど私は片桐仁のファンだったから、彼不在の小林賢太郎の創る世界への違和感と言うか、演劇的な部分の弱さは感じていた。
『ノケモノノケモノ』はTEAM NACSの音尾琢真が主演で期待していったが、正直、うーん、「考えさせられる」というような感情になったのを覚えている。

嫌な言い方をすると、私の好きな演者を一番魅力的にしてくれる脚本家で演出家で共演者で相方であった。そんな賢太郎が好きだった。
一人の小林賢太郎じゃなくて、ラーメンズ小林賢太郎が好きだった。
片桐仁がいつまでも待っていた、ラジオでからかわれて泣くほど大切にしていたラーメンズが私は好きだった。
そういうことなのかもな。

何はともあれだ。

賢太郎さんお疲れ様です。これからもマイペースに生活をして下さればそれで。
片桐さんを見付けてくれて、一緒にコンビを組んでくれて、本当にありがとうございます。

 


いつか、見られるようになるかな。


ラーメンズ『TEXT』より「銀河鉄道の夜のような夜」